ジャポニスム2018|Japonismes 2018

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レポート
2019/04/12

「日本映画の100年」総括レポート!日本映画100年の歴史を119本の作品でフランスに紹介する一大プロジェクト。半年間にわたり好評を博し、ついに完結!

 2018年7月よりパリを中心にフランスで開催された日本文化・芸術の祭典「ジャポニスム2018:響きあう魂」。その約100件の公式企画のうち最大プロジェクトの一つ、2018年9月から始まった「日本映画の100年」が、ついに2019年3月19日をもって全119作品の上映を終えました。
 諸外国の中でも日本映画が殊に親しまれているフランスにおいてさえまだよく知られていない作品や監督に焦点を当てたラインナップを、パリが世界に誇る映画の殿堂、シネマテーク・フランセーズと、日仏文化交流の拠点、国際交流基金パリ日本文化会館において上映した他、トゥールーズ、リヨン、ニース、ヴズールの各地でもその一部の巡回上映を行いました。登壇ゲスト計29名という超豪華プロジェクトであった本企画は、全体を通して約25,000名のお客様にお越しいただきました。3月25日現在集計中の来場者アンケートによれば、97.4%の観客が「大変満足」「満足」と回答、「日本映画を通してもう一度日本文化に対する知識を深めることができた。映画の中に日本の未知の一面を見ることが楽しく、日本文化に一歩近づいた気持ち」、「映画に描かれた普通の日本人の日常生活に生の日本を感じた。現代社会の抱える課題をテーマとした優れた映画で、フランスではなかなか見られない作品を今回いくつも見せてもらった」、「さまざまな種類の映画が多数上映され、いろいろなタイプの監督にたくさん出会えた。オリジナルな企画に満足。来年もやってほしい」、「何十年も前に見てすっかり忘れていた名画を、今回新たな感動と喜びをもって堪能した。日本のすばらしい修復技術のおかげでの『再発見』に感謝したい」、「半年間楽しんできたので、企画が終わってしまうのが寂しい。こうした催しをもっと頻繁に開いてほしい!」といった感想が寄せられています。

 本企画では、フランスのより広い層に日本映画や日本文化への関心が根付き、映画を通じて日本とフランスの間により深い理解と交流が芽生えることを目指し、上映作品選定にあたっては日仏両国の映画専門家から成る企画選定委員たちが激論を重ねました。日本側の「見せたい映画」とフランス側の「見たい映画」、その相違を知り、相互に意見を交わし、上映作品ラインナップが最終的に決まるまでには膨大な時間を要しました。それ自体が異文化接触であり文化交流だった作品選定と準備過程の結晶として生まれた本企画が、しっかりとフランスの観客に受け容れられたことは、日仏映画交流の将来を明るく灯す光です。本企画によって生まれた日仏の映画を愛する人々の交流が、今後映画界に新しい創造をもたらすことを期待しつつ、以下に本企画を振り返ります。

 

実施概要


<パリ上映会>
・第1部「日本映画の発芽」
 2018年9月26日(水)~ 10月21日(日)於 シネマテーク・フランセーズ
・第2部-Ⅰ「日本映画再発見(4Kクラシック傑作選)」
 2018年11月21日(水)〜 12月21日(金)於 パリ日本文化会館
・第2部-Ⅱ「日本映画再発見(知られざる傑作特集)」
 2019年1月23日(水)~ 3月18日(月)於 シネマテーク・フランセーズ
・第3部「現代監督特集」
 2019年2月6日(水)~ 3月19日(火)於 シネマテーク・フランセーズ、パリ日本文化会館

<地方巡回上映会>
・トゥールーズ: 第1部~第3部 (第2部-Ⅱ中心/31作品)
 2018年9月28日(金)、2019年1月4日(金)~ 2月7日(木)於 シネマテーク・ドゥ・トゥールーズ
・リヨン: 第1部(1作品) 
 2018年10月2日(火) 於 アンスティテュ・リュミエール
・ニース: 第2部~第3部(第2部-Ⅰ中心/13作品)
 2018年10月6日(土)~11月30日(金) 於 シネマテーク・ドゥ・ニース
・ヴズール: 第2部~第3部(第2部-Ⅰ中心/13作品)
 2019年2月5日(火)~2月12日(火) 於 シネマ・マジェスティク(ヴズール国際アジア映画祭)


 

■第1部「日本映画の発芽」
 2018年9月26日にシネマテーク・フランセーズで迎えた「日本映画の100年」の幕開け、第1部の初日には、3人の企画選定委員が登壇した開幕式に続き、貴重な日本映画最初期の作品である『雄呂血』(1925年、二川文太郎監督)の上映に合わせて、日本でも注目を集める若手活動弁士・坂本頼光さんと楽団カラード・モノトーン・トリオによる公演が行われました。その後、『雄呂血』と公演団はトゥールーズ、リヨン、ニースにも巡回し、各地で満員の大盛況をみせました。第1部で上映された1920年代から第二次大戦前までの計27本の作品のうち、『雄呂血』の他、前衛音楽のパフォーマンスつきで上映した『狂った一頁』(1926年、衣笠貞之助監督)や、フランスでも知る人ぞ知る傑作『人情紙風船』(1937年、山中貞雄監督)の上映には特に多くの観客が来場し、黎明期の日本映画に対する高い関心と前提知識の深さがうかがえました。

 

(左上)2018年9月26日開幕式 (右上)「日本映画の100年」企画選定委員、左から安藤、ロジェ、アルデュイニ各委員 (左下)楽団カラード・モノトーン・トリオ ©jean luc mege photography 2018 (右下)活動弁士・坂本頼光さん

 

■第2部-Ⅰ・Ⅱ「日本映画再発見」
 「日本映画再発見」と題した第2部は、第二次世界大戦後から2000年代までの日本映画をさまざまな角度から見つめ直す試みでした。日本映画史上極めて重要な名作を、近年デジタル修復された新版で見直す機会を提供する「4K修復で見直すクラシック映画傑作選」(第2部-Ⅰ)と、フランスでまだ知られていない名監督による傑作と知られている監督の未知なる傑作とをフランスの観客に紹介する「知られざる傑作映画特集」(第2部-Ⅱ)の2セッションに分けて、選定委員自慢のラインナップ全55本が上映されました。

 第2部-Ⅰで披露された黒澤明監督、小津安二郎監督ら巨匠による日本映画「定番」傑作のデジタル修復版は、これまでの版では物理的に見えていなかった暗いシーンがクリアになるなど、目の肥えたフランスの日本映画ファンにも新鮮な驚きをもたらしました。『浮草』(1959年、小津安二郎監督)のアフタートークでは、同作品の4Kデジタル復元を手掛けた国立映画アーカイブの大傍正規主任研究員が小津映画の色の再現を追求した復元秘話を紹介し、その熱弁が聴衆を惹きつけました。さらに、『東京暮色』(1957年、小津安二郎監督)、『山椒大夫』『近松物語』(いずれも、1954年、溝口健二監督)、『東京物語』(1953年、小津安二郎監督)の上映時には、それぞれに出演した、日本映画の黄金期を代表する女優の有馬稲子さん、香川京子さんをゲストにお招きし、誰もが知る名監督の撮影現場を直接体験した貴重な思い出などをじっくりと語っていただき、会場からは、「何度も見た有名な傑作の中に今回新たな発見があり、新しい喜びを見出した」、「名女優たちの美しさに息を呑み、貴重な話を聞かせてもらったことに感激した」との声が寄せられました。

 第2部-Ⅱは、上映作品選定に向けた日仏の選定委員の意見の擦り合わせに特に時間を要したパートでした。何度も繰り返し議論を重ね、決定したラインナップは、戦後日本の映画史を俯瞰しつつもユニークな作品が並ぶものとなりました。フランスでは任侠映画でことに知られる加藤泰監督の作品からはあえて時代劇の『瞼の母』(1962年)と記録映画の『ざ・鬼太鼓座』(1989年)を、ロマンポルノ映画出身の巨匠・神代辰巳監督の作品からはあえてヒューマンドラマ『棒の哀しみ』(1994年)を、また、カンヌ国際映画祭常連の黒沢清監督は、あえてフランスでも見たことがある人が少ない初期の傑作『地獄の警備員』(1992年)を選ぶなど、各監督の知られざる側面がうかがえるような、ひとひねりあるラインナップがパリのシネフィルを唸らせました。実際の上映にあたっては、中でも特に『その場所に女ありて』(1962年、鈴木英夫監督)、『蜂の巣の子供たち』(1948年、清水宏監督)といった、日本でも最近になって再評価、再発見された傑作がフランスの観客からも非常に大きな反響を呼びました。「素晴らしいラインナップだった」、「もっと日本映画の知られざる一面を観たい!」といった感想が寄せられました。

 

(左)国立映画アーカイブ大傍正規主任研究員 ©澤田博之 (中央)有馬稲子さん ©澤田博之 (右)香川京子さん ©藤岡緑

 

■第3部「現代監督特集」
 第3部では、大御所から気鋭の若手まで、今の日本映画界を牽引する監督たちの作品を、2018年公開の最新作を含めて一挙に37本上映し、日本映画の「今」を伝えました。2019年2月には、役所広司さん、常盤貴子さん、宮﨑あおいさんの俳優3名、大林宣彦監督ほか映画監督計12名、プロデューサー2名の合計16名の映画人たちが続々と訪仏し、連日、映画上映後のゲストトークでファンとの交流を深めました。トークに参加したフランスの観客からは、監督の演出手法について踏み込んで尋ねたり作品に込められた社会的な意味を追求したりと、フランスならではの切れ味鋭い質問も数多く飛び出し、各回ともに短時間ながら濃密なトークが繰り広げられました。トークの後もゲストは観客に囲まれ、聞き足りなかった部分に関する質問を受けたり、カタログにサインを求められたりしていました。訪仏した監督陣や俳優陣からも、「自分の作品をフランスの観客がどう見るのか知りたかったので、刺激的で非常によい経験をした」、「たくさん質問を頂けてよかった」、「どの質問もとても面白かった」、「この映画で笑いが出るとは驚いた。さすがフランス。勉強になる」といった喜びの声が聴かれました。さらには「特別ゲスト」として、2月中、会場の一つであるパリ日本文化会館に『シン・ゴジラ』(2016年、庵野秀明監督・樋口真嗣監督)のシン・ゴジラ像が展示され、来館者に大好評を博しました。

 2月15日には、パリのフランス国立映画センター(CNC)にて、「日本映画の100年」の記者発表会が行われ、訪仏した映画人の方々を代表して大林監督と俳優の役所さん、常盤さん、宮﨑さんが出席し、フランスで自作が上映されることへの思いなどを語りました。なお、これに先立ち同会場では、ジャポニスム2018をきっかけの一つとして、今後の日仏両国の映画分野における協力と交流が一層促進することを目的に、公益財団法人ユニジャパンとフランス国立映画センターが日仏映画監督・プロデューサーを招いて催した「日仏映画ラウンド・テーブル」と、両者の間で昨年締結された「日仏映画協力協定」の交換式も執り行われました。

 

(左から右、上から下の順に)安藤桃子監督、細田守監督、沖田修一監督とアルデュイニ企画選定委員、白石和彌監督と役所広司さん、青山真治監督と宮﨑あおいさん、大林宣彦監督・常盤貴子さん・宮﨑あおいさん・役所広司さん(2月15日記者発表会)、常盤貴子さん、大林宣彦監督、シン・ゴジラ像と樋口真嗣監督、役所広司さん、李相日監督、宮﨑あおいさん、岩井俊二監督、小笠原弘晃さんと阪本順治監督、松永大司監督、濱口竜介監督、大林宣彦監督と常盤貴子さん ©澤田博之、藤岡緑、新原由梨奈

 

■登壇ゲスト一覧(敬称略)
開幕式
【企画選定委員】
安藤紘平(早稲田大学名誉教授・東京国際映画祭プログラミングアドバイザー)
ファブリス・アルデュイニ(パリ日本文化会館映画部門プログラミングディレクター)
ジャン゠フランソワ・ロジェ(シネマテーク・フランセーズ・プログラミングディレクター)

第1部「日本映画の発芽」
【活動弁士】
 坂本頼光(開幕式・『雄呂血』活動弁士公演に出演)
【楽団】
 カラード・モノトーン・トリオ:湯浅ジョウイチ(ギター&三味線)、鈴木真紀子(フルート)、杉本顕子(ピアノ)(開幕式・『雄呂血』活動弁士公演に出演)

第2部-Ⅰ「日本映画再発見」4K修復で見直すクラシック映画傑作選 
【俳優】
 有馬 稲子 (『東京暮色』のアフタートークに登壇)
 香川 京子 (『山椒大夫』『近松物語』『東京物語』の各アフタートークに登壇(その他の出演作品『Shall we ダンス?』(第2部-Ⅱ)))
【専門家】
 大傍 正規 (国立映画アーカイブ主任研究員、『浮草』のアフタートークに登壇)
 ※通訳:モハメド・ガネム、高橋晶子  
 ※聞き手:安藤紘平、ファブリス・アルデュイニ、クレモン・ロジェ(パリ日本文化会館)

第3部「現代監督特集」
【俳優】
 常盤 貴子 (『誰かの木琴』 『花筐/HANAGATAMI』の各アフタートークに登壇)
 宮﨑 あおい (『怒り』 『ユリイカ』 の各アフタートークに登壇(その他の出演作品『おおかみこどもの雨と雪』 (声)、『わが母の記』))
 役所 広司 (『キツツキと雨』 『孤狼の血』 『三度目の殺人』 の各アフタートークに登壇(その他の出演作品『Shall we ダンス?』 『タンポポ』 『眠る男』(以上3作品は第2部-Ⅱ)、『ユリイカ』 『わが母 の記』))

 特別出演
 小笠原 弘晃(『団地』のアフタートークに登壇。同映画に子役として出演、現在フランス留学中)

【映画監督】
 青山 真治 (『ユリイカ』のアフタートークに登壇)
 安藤 桃子 (『0.5mm』のアフタートークに登壇)
 岩井 俊二 (『Love Letter』 『リップヴァンウィンクルの花嫁』の各アフタートークに登壇)
 大林 宣彦 (『HOUSE/ハウス』 『花筐/HANAGATAMI』の各アフタートークに登壇)
 沖田 修一 (『キツツキと雨』 『モリのいる場所』の各アフタートークに登壇)
 阪本 順治 (『団地』のアフタートークに登壇(その他の監督作品『エルネスト』))
 白石 和彌 (『孤狼の血』のアフタートークに登壇)
 濱口 竜介 (『親密さ』のアフタートークに登壇)
 樋口 真嗣 (『シン・ゴジラ』のアフタートーク及びスペシャルトーク『巨神兵東京に現わる』に登壇)
 細田 守 (『おおかみこどもの雨と雪』のアフタートークに登壇)
 松永 大司 (『トイレのピエタ』 『ハナレイ・ベイ』の各アフタートークに登壇)
 李 相日 (『怒り』 『許されざる者』の各アフタートークに登壇)

【映画プロデューサー】
 木藤 幸江 (『孤狼の血』アフタートークに登壇)
 佐藤 公美 (『ユリイカ』アフタートークに登壇)

【映画評論家】
 ファビアン・モロ(『シン・ゴジラ』のアフタートーク及びスペシャルトーク『巨神兵東京に現わる』に登壇)

 ※通訳:高橋晶子、レア・ルディムナ、武貞智子
 ※聞き手:安藤紘平、ファブリス・アルデュイニ、クレモン・ロジェ、ワファ・ゲルマニ(シネマテーク・フランセーズ)

■上映作品・上映日時等詳細   ※下記ウェブサイトをご覧ください。
 「日本映画の100年」特設サイト
 「日本映画の100年」119本リスト
 「日本映画の100年」公式企画概要

■公式カタログについて

 「日本映画の100年」で上映された全119作品の情報と解説をまとめたカタログを、2018年11月、フランスの出版社ラ・マルティニエール(Éditions de La Martinière)より刊行しました。
まえがきは是枝裕和監督が執筆。映画評論家の山根貞男さん、マチュー・マシュレさん、大林宣彦監督はじめ日仏映画専門家寄稿によるエッセイも収録されています。
 本企画の公式カタログという役割のほか、日本映画について戦前から現代までを網羅したリファレンス本としての役割も果たします。