ジャポニスム2018|Japonismes 2018

宮本亜門氏の画像

インタビュー
2018/12/10

能☓3D映像『YUGEN 幽玄』
宮本亜門がかけた「時代と国境を超える“橋”」

 9月12日、パリ・ヴェルサイユ宮殿オペラ劇場で『YUGEN 幽玄』が上演されました。『YUGEN 幽玄』は、宮本亜門さんによる演出で観世流能楽師の出演により、能の演目である「石橋」と「羽衣」をベースに3D映像で日本の自然を表現し、美しき日本の幽玄の世界を舞台上に再現した、新たな舞台芸術です。
 皇太子殿下、エマニュエル・マクロン フランス共和国大統領もご臨席のもと上演され、終演後は会場が割れんばかりの喝采を浴びていました。伝統芸能の能と、最先端テクノロジーである3D映像を組み合わせた新しい舞台芸術をどんな気持ちで演出をされたのか、宮本亜門さんにお話を伺いました。

 
―今回、ヴェルサイユ宮殿での公演に、なぜ能を選んだのでしょうか?

 能は、ミニマルな表現で現世や来世を表現します。観阿弥、世阿弥から約700年間受け継がれ、削ぎ落とされ、完成された美しい芸能です。でもあまりに研ぎ澄まされたがゆえに、難解に思われ、敷居が高くなっている部分があるのも事実です。僕は能のすばらしさをフランスの方々にも分かっていただくために、あえて、そのまま持っていくより、3D映像の技術を使って、少しわかりやすい“橋わたし”をしようと考えました。

 
赤獅子:観世三郎太、白獅子:坂口貴信

 
―能と3D映像を組み合わせるというアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

 シンガポールで公演したときに、向こうの方から「プロジェクションマッピングと組み合わせられないか」という提案があり、それならばまだ舞台では珍しい3D映像とライブの組み合わせをやろうと思ったのがきっかけです。単に映像で背景をつくるのではなく、映像と演者が絡むことでより新しい表現が可能になるのではないかと考えました。能の世界から厳しい批判もあるだろうなということは覚悟したうえでの挑戦でした。

 

天女:関根祥丸

 
―なぜそこまで能にこだわったのでしょうか。

 初期の能は野外で演じられ、実にドラマティックなエンタテインメントだったと思うのです。ミュージカルだという人もいますし、動きも現代よりずっと早かったといわれています。時代も超えるし、あの世とこの世を繋ぎ、また宇宙にも行ったりし、どの演劇よりも自由自在に次元が変わる。神妙な顔で舞台を見つめるのではなく、観客も驚いたり、想像しながら楽しんでいたのではないでしょうか。でもそういった初期の能ばかりを意識して、3D映像を作ったら、現代の能の世界観が失われてしまう。映像で説明しすぎないよう、観客が五感六感を働かせ、想像力で見えないものが見えるように、バランスにはかなり注意しました。

 

 
―シンガポール公演とフランス公演の違いは?

 シンガポールのときよりも説明的な部分を省きました。フランスの方々は、日本の文化、わびさびの精神に精通しています。彼らがジャポニスムを世界に伝えてくれたわけですから。あえて説明を省いたのは、その信頼があったから。マクロン大統領からも「これまでに見たことがないようなすばらしい舞台だ」というお言葉をいただきました。たくさんの人の思いがあって、実現した舞台。能楽師の方々からも「こんな能をやりたかった」と言ってもらい、自分にとっても本当に幸せな時間になりました。

 

 
―フランス公演で新しい発見はありましたか?

 今回、多くの方によろこんでいただけたのは、歴史あるヴェルサイユ宮殿で行われたというのも大きいと思います。明るいなかで見るときらびやかなのに、いったん照明が落ちると、暗闇になり、本物の静寂がありました。いま世界中どこに行っても、本当の闇に出会うことは少ない。でもその闇のなかにおそれがあり、おそれを超えたところにあたたかさや美しさがある。日本人は元来、そういった闇を含めた自然とともに生き、文化を育んできた。そしてその精神は、世界に通じるのです。フランスにも闇があり、自然がある。他の国も同じでしょう。自然に対する考え方は違えども、それを求める気持ちは万国共通だと思いました。

 能と3D映像、時代を超えたコラボレーションは、国境を超え、多くの人に日本文化のすばらしさを伝え、感動を与えました。宮本さんの“橋わたし”が、日本とフランスを結ぶ架け橋となり、両国の文化交流、文化理解をより深いものへと変えたのではないでしょうか。

舞台写真:©KOS-CREA
インタビュー、文、写真:KOSUKE KAWAKAMI

宮本亜門

 演出家。2004年、ニューヨークのオンブロードウェイにて『太平洋序曲』を東洋人初の演出家として手がけ、同作はトニー賞の4部門でノミネートされた。ミュージカルのみならず、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎など、ジャンルを越える演出家として、活動の場を国内外へ広げている。