ジャポニスム2018|Japonismes 2018


インタビュー
2019/03/25

日本の豊かな食を世界の生活文化と融合させる
ジャポニスム2018公式企画「日本の食と文化」シリーズの挑戦(後編)


(前編はこちら)

 フランスの方々に日本の食文化を学び、楽しみ、考えてもらうきっかけとなることを目的に行われた「ジャポニスム2018」公式企画「日本の食文化」シリーズに参加いただいたミクソロジストの南雲主于三さんとSAKE Gastronomistの宮下祐輔さん。前編に続き、世界に伝えたい日本茶や日本酒の魅力や今後の可能性についてお話を伺いました。

 
―今後、どのようにしたら、海外の方にさらに興味を持ってもらえると思われますか。

宮下:日本酒の場合は、日本酒と同じくらいやきものの長い歴史があって、酒文化、食文化と密接な関係にあります。そういう周辺の日本文化の要素も含めて訴求していくべきだと思います。お酒はその国の文化に興味を持ってもらうための入口にはうってつけです。単なるアルコール飲料としてではなく、文化としての奥深さを体験いただくことができたなら、そのお酒がきっかけとなって、ある方はやきものに興味を持ったり、ある方は茶道に興味を持ったり、着物や建築、演劇に興味を持たれる方も出てくるかもしれません。まさに今回の「ジャポニスム2018」で行われたような様々な日本の文化に興味を持つ方が増えてくれるととても素晴らしいと思います。

南雲:フランスの方はカルチャー好きですからね。文化的素養をお持ちの方が多い。ただ、今、僕らが発信しようとしているお茶にしてもお酒にしても、ちゃんと伝えて、体験していただいて、感覚的にもわかっていただくことが重要だと思いました。

宮下:そうしないと伝わらないですよね。それと日本文化としてのオリジナルを体験いただくことはとても重要ですが、それだけでもダメだと思っています。それぞれの国が独自の歴史と文化を持っているわけですから、その文脈の中で、日本茶と日本酒をどのように取り入れ、楽しんでいって欲しいのかという、突っ込んだ提案も欠かせないと思っています。

南雲:宮下さんは、今後、海外の方に日本酒をどのように楽しんでもらいたいと思っていますか?

 

 

宮下:今、世界的に料理の味わいが中庸に寄ってきている。フランス料理にしても、どんどん和食のエッセンスを取り入れて行っているし、食の境界線がなくなってきていると言ってもいい。そうなると当然、和食店に限らず、世界中のレストランで日本酒が活躍するチャンスが広がってくる。しかしながら、日本でも日本酒と料理を意識的にペアリングして楽しむようになったのは、ごく最近のこと。残念ながらまだそのサービス・メソドロジーは体系化されているとは言い切れません。例えば、お燗ひとつを取ってみても、プロに質問すれば、100人が全員違った回答をするでしょう。これでは海外へ広がっていくはずもありません。ワインのように、サービス・メソドロジーをきちんと体系化し、共通の言語・共通の表現で説明でき、誰にとっても分かりやすいものにしていく必要があります。これは僕の役割でもあると認識しています。世界的に低アルコール化している現象も見逃せませんし、南雲さんが取り組まれている日本茶やカクテルの考え方からもぜひ学ばせていただきたいと思っています。

 

 

南雲:日本茶のカクテルは、今はまだ“変化球”という立ち位置に過ぎません。10年経ったときには、お茶を使ったカクテルがワールド・スタンダードになっていることが私の目標です。その目標に向かって、国内外で様々な取り組みをやっていきたい。日本茶のカクテルには国産の茶葉を使いたいので、茶農家さんにも相談しています。今はお茶の生産者も代替わりして僕たちと年代が近いですから、お酒に使える茶葉を一緒に開発していこうと考えています。ペットボトル用の茶園があるように、お酒に使えるお茶を作る専門農家が出てくるかもしれません。そうすれば、輸出にもつながっていきますよね。それにカクテルはどこの国でも通用するものですから、各国の特徴を取り入れたお店を出店し、今回の「ジャポニスム2018」のようなセミナーも開催したいと思っています。茶農家さんに来てもらって、カクテルだけでなく、お茶単体でも飲んでいただいたり、また、向こうのシェフともコラボしたりしながら、少しずつ広めていけたらと考えています。

宮下:カクテルのレシピと日本茶を一緒に輸出していくというのは、おもしろい発想ですね。南雲さんがおっしゃられる通り、海外での拠点は非常に重要な意味を持ちますし、その点は日本酒の場合も同じだと思います。今は、日本酒の輸出が伸びていると言っても、一部の大手メーカーのものが伸びているだけで、いわゆる地酒と呼ばれるものは、これからの段階です。高級酒の代名詞でもある大吟醸よりも、個性豊かな味わいの地酒は、きっと海外のお客様にこれまでとは違った日本酒の印象を与えてくれるに違いありません。しかしながら、地酒は、大吟醸のように分かりやすいお酒でないことも事実です。そのため、それぞれの国において、日本酒文化を総合的に体験し、学べる環境が不可欠になりますし、そこでそれぞれの地域の魅力、地酒の魅力をきちんと訴求していかなければいけません。海外のインポーターやディストリビューターにその役割を担ってもらうのもひとつですが、できれば直接それらを伝える場所があるに越したことはありません。そしてもしそれができれば、例えばワイン好きの日本人が、ブルゴーニュの小さなワイナリーを訪れることを目的にフランスへ旅行するのと同じように、海外の方が日本の地方の小さな酒蔵を訪れることを目的に日本へ旅行するようなことが当たり前になってくる。世界中にコアなファンを作って行くためにも、裾野を広げるための海外拠点づくりは非常に重要だと思っています。日本酒だけでなく、南雲さんの日本茶の取り組みも一緒にできたらさらに素晴らしいものになるかもしれませんね。南雲さんは、実際に海外の拠点がどのような役割を担うべきだとお考えですか?

 

 

南雲:お茶とカクテルにフォーカスした場合、トレンドや周囲の変化に流されずに常に本質をついて提供していくこと、そして緩やかに変化し続けることが重要だと思います。お茶に触れ、楽しむ空間を各国に作り、それぞれの国でその国らしい発展をしていくようになったら、素晴らしいと思っています。かつて、19世紀のジャポニスムがそうであったように、その国に取り入れられることで、日本文化とその国の文化が混ざり合い、新しい文化を創り上げていく。フランスにはフランスの、アメリカにはアメリカの伝わり方、楽しみ方、広がり方があると思いますし、僕たちがそれをどれだけ後押しできるかだと思います。今はまだ、情報伝達という段階。でも、その先には必ず文化の融合があるはずです。

宮下:まさに、その通りですね。

南雲:お茶のカクテルもそうあってほしい。そのための努力は惜しまないつもりです。あとはそれだけの技術を伝えるとなると、かなりの言語も必要になりますし、トレーニングも欠かせません。人材を育てていくことも大切なテーマのひとつです。

宮下:きちんとしたサービスができる人材が重要だという点は、日本酒も同じだと思います。今は蔵元の代替わりや醸造技術の向上もあって、美味しいお酒を探すより、美味しくないお酒を探すことの方が難しくなってきている。それに流通も変わり、今や手に入らないお酒はないと言ってもいいくらいです。そうなると家でも同じものが飲めるのに、なぜわざわざレストランで高い値段を払ってまでそのお酒を飲むのか、改めてその意味が問われるようになっています。どれだけの付加価値を付け、どれだけの世界観を示すことができるのか、サービスの担い手が果たす役割は、むしろ益々大きくなっていくと考えています。それに先ほどの南雲さんのお酒専門の茶農家さんが出てくるかもしれないという話にも通じるのですが、サービスの担い手のレベルが向上し、そのノウハウをきちんと蔵元へフィードバックすることができれば、また新たな日本酒が生まれる可能性も出てきます。海外市場を含め、日本酒文化が真に発展し、成熟していくのはまだまだこれからのことだと思っています。

南雲:日本茶と日本酒は大いなる武器であり、これほど強力なビジネス・ツールもありません。そのポテンシャルを引き出していくことが、私たちの役割だと思っています。本日は誠にありがとうございました。今日は対談だけで、実際にお店で食事ができなかったのが残念です。

宮下:こちらこそありがとうございました。それでは次回は、一次会は〈ふしきの〉で料理と日本酒ペアリングをお楽しみいただき、二次会は、南雲さんのバーで日本茶のカクテルを一緒に楽しみましょう。

 

 

南雲主于三

 最先端の技術と機材を巧みに操り、既存にない新しいカクテルを生み続けている日本随一のMIXOLOSIST。
 2017年4月にGINZASIX内にお茶とカクテルをコンセプトとした新業態のMixology Salonを開業。2018年11月に銀座Plus Tokyo内に国産スピリッツカクテルの専門BarとしてMixology Spirits Bang(k)を開業。現在は都内に6店舗のBarを経営するほか、メーカーのプロモーション企画コンサルティング、大手外資ホテルのメニュー開発、外資酒類大手との商品開発コンサルティング、様々な団体や企業などのパーティへのカクテルメイクのケータリングなどを中心に事業を拡大。
 アジアを中心に世界中でカクテルセミナーを行いつつ、国内外でゲストバーテンダー、講師として招待され、多岐に渡り活躍中。

宮下祐輔

 SSI認定利き酒師・酒匠、遠州流茶道師範
 2006年に開催された「第2回世界利き酒師コンクール」にて最年少のファイナリストとなり、以後、各地で日本酒や酒器に関するセミナーを開催。2011年には和食の日本酒ペアリングの専門店「ふしきの」をオープン。これまで延べ1万人以上に日本酒ペアリングを提供し、日本酒サービスに関する独自の理論を構築。現在は、日本酒アンバサダーとして、日本国内をはじめ、世界各国で日本酒ペアリングのイベントや日本酒や器の講師として招聘されセミナーを開催。