ジャポニスム2018|Japonismes 2018


インタビュー
2019/03/25

日本の豊かな食を世界の生活文化と融合させる
ジャポニスム2018公式企画「日本の食と文化」シリーズの挑戦(前編)

 近年、海外での和食ブームは高まるばかりですが、フランスにおいても日本食レストランは増加傾向にあります。フランス人は日本の食文化をいかにとらえているのか?「ジャポニスム2018」の公式企画「日本の食と文化を学ぶ/楽しむ/考える」各シリーズで、日本茶と日本酒の魅力と可能性を、フランスの方々により深く知っていただくためのワークショップやペアリングなどに取り組んだ、ミクソロジストの南雲主于三さんとSAKE Gastronomistの宮下祐輔さんにフランスでの反響を伺いました。

 
―お二人はそれぞれ、「日本の食と文化」シリーズに参加いただきましたが、現地ではどのようなことをされたのですか。

南雲主于三(以下、南雲):私は2回、パリに伺ったのですが、最初は11月に「日本茶アトリエ」(「日本の食と文化を学ぶ」シリーズ)でパリのミシュラン一ツ星を獲得されている〈レストランES〉の料理とデザートに合わせ、日本茶を使ったカクテルのペアリングを提供しました。また2回目は、12月に「日本茶講演会」(「日本の食と文化を考える」シリーズ)で、お茶の楽しみ方の新たな可能性についての講演をさせていただきました。

宮下祐輔(以下、宮下):私の方は、「酒巡りin Paris」(「日本の食と文化を楽しむ」シリーズ)で10月に、ワインジャーナリストや有名ソムリエ、現地の日本酒インポーターはじめプロの方に向けてのフレンチと日本酒ペアリングの体験型ワークショップと、一般のお客様向けの日本酒のワークショップも担当させていただきました。

 

 

―フランスのお客様のそれぞれのペアリング企画の反応はいかがでしたか。

南雲:フランス人の好みを理解した上で、どうアプローチするのかを考えました。〈レストランES〉のシェフ、パティシエとともに、どちらかがどちらかに合わせるのではなく、二つで一つの調和が作り出せるようアイディアを出し合いながら、ペアリングを考えました。日本茶のカクテルだけで通すのは厳しかったので、どうしてもペアリングが難しい料理については、できるだけ日本の素材を組み込んだカクテルも提供しました。日本酒を使ったカクテルも提供しています。サービスをする時には、カクテルと料理を口に入れる順番も伝えて、口にふくんだ時の味の移り変わりも味わっていただきました。その結果、中でも最後に提供したデザートとカクテルのペアリングは、参加されたお客様から「これまでの人生の中で最高のペアリングだった」という感想まで頂戴しています。

宮下:僕の方は、「酒巡りin Paris」でパリにいらっしゃっている蔵元のお酒を使用し、また料理も特別にアレンジしたものではなく、普段からそのフレンチのレストランで出している料理に合わせてペアリングを提供しました。制約が多かったのは事実ですが、現地では潤沢な日本酒の選択肢がない現状を考えれば、酒器でお酒の味わいを調整したり、お燗にして温度変化を加えたり、加水してトーンを調整したりしてペアリングさせていくという手法は、とても興味を持ってもらえたのではないかと思います。中でもデザートとのペアリングはとてもおもしろかったと思います。この日のデザートが柚子の酸味が利いたクリームチーズのようなデザートで、手元にある日本酒では少し合わせづらい。それを解消するために、一旦48℃ぐらいのお燗にしてお酒の甘みを引き出し、そこに冷酒を少し足して、2つの温度がレイヤーになるように提供しました。こうすると、飲んだ瞬間はお燗由来の甘みを感じるのですが、余韻に冷酒由来のクリアな酸味が残って、デザートが持つ甘みと酸味の両方に合うんです。お酒は、サービスの仕方によって表情がとても豊かに変化しますし、フレンチと日本酒のペアリングの可能性も感じてもらえたのではないかと思います。

 

 

南雲:日本酒のサービスのプロの方は実にテクニカル。宮下さんのように自在に味わいを操れるのは、技術力なんですよね。セレクターであると同時に技術者でもありますよね。でもワイン文化が中心のフランス人の方に日本酒のワークショップをされるのは、一筋縄ではいかなかったのではないですか?

宮下:南雲さんのおっしゃる通りです。決して簡単なことではありませんでした。パリで日本食のレストランが増えていることもあり、日本酒への関心は非常に高まっている。今回の企画も参加者の募集を始めてすぐに満席となり、長いウエイティングリストができたと聞いています。しかしながら、いくら関心が高くても決して日本酒が一般的になっているわけではありません。そのため、私が担当したワークショップでは、日本での進め方とは少し内容を変え、歴史や文化的背景を交えつつ、できるだけロジカルに説明するように心掛けました。例えば、酒器がよい例です。フランスでは当然ワイングラスが主流ですから、日本の酒器ではなく、ついワイングラスの方に馴染みを感じてしまう。そのため、まずはこれが日本の伝統的な酒器と呼ばれるもので、日本人は千年以上も前からこういう形状の器でお酒を飲んできたという背景を説明し、またそれは味わいの側面からも見ても実に理に適っているんだというサービス・メソドロジーの観点も交えながらを話をします。すると、それなら日本酒は日本の酒器で飲んでみようという気になってもらえ、実際に飲んでみて美味しければ、ワインとは違う魅力が日本酒にはあることに気が付き始めてくれる。お燗の場合もそうです。「飲めば分かるだろう」「美味しければ分かるだろう」と言うのは決して通じません。異なる文化を受け入れてもらうには、何が、どのように、なぜ異なるのかをきちんと説明するところから始める必要があると思います。

南雲:海外の場合は、飲み物に対する価値観やプライドが日本人とは異なるので、ロジカルに説明し、伝えることがとても大事ですよね。

宮下:はい。その通りだと思います。そのロジカルさが最も求められたのが、今回のフランスでのワークショップだったと思います。

 

 

―南雲さんの日本茶のカクテルという試みは、非常に難易度の高いものだったのではないでしょうか。

南雲:カクテルの素材の一つとして、日本茶は大きな可能性を秘めていると思っていたため、実は日本茶の専門家の方と2015年から、様々なトライアルをしてきました。ただ、命題としてカクテルにしたとき、素材である日本茶だけで提供したときよりも美味しくならなければいけない。美味しくならなければ、そもそもカクテルにする意味がありません。それに一言で日本茶と言ってもたくさんの種類が存在します。茶葉によって淹れ方も違うし、旨みや甘み、渋みなどの味わい方も違うのも魅力の一つです。その違いも活かしたカクテルにするために色々な試みを行いましたが、実は半分はうまくいって、半分は失敗でした。例えば、ほうじ茶や玄米茶であれば、味の骨格が強いため、お酒との親和性が出しやすいのですが、煎茶や玉露の場合は繊細な味わいのため、カクテルにするのが非常に難しい。あらゆる挑戦をしてみたけれど、旨味と渋みのバランスが整ったあの煎茶の良さをなかなかカクテルで表現することはできなかった。最終的に辿り着いた手法が、煎茶をジンに漬け込んで作ったジントニックでした。玉露の場合も同じです。玉露独特の強い甘みをカクテルで表現することが難しく、試行錯誤の繰り返し、思いきって玉露の量を増やしてウォッカと一緒に蒸留したところ、やっとその玉露の風味と味わいを抽出することできた。その結果できたのが、今、ミクソロジーサロンでも提供している玉露マティーニです。色々と課題はあったとしても、お茶を楽しむ新たな方法として、カクテルにして楽しむことを提案したかったんです。

 

 

宮下:私も先日、〈ミクソロジーサロン〉にお伺いして、南雲さんの玉露マティーニをいただきましたが、味わいの完成度にとても驚かされました。玉露の良さがきちんと感じられるだけでなく、カクテルとしてもとても美味しくなっている。様々な要素が一体となって、ひとつの料理を味わうような感動を覚えました。ミクソロジーサロンで提供されているそれぞれのカクテルを南雲さんはどのような考えで作られたんですか?

南雲:僕はお茶を使ったカクテルを考えるときに、三つの要素が必要だと考えました。一つ目はクラシックカクテルのお茶バージョン。先ほどの煎茶ジントニックや玉露マティーニがそれですね。二つ目はもう少しクリエイティブなもの。いろんな要素を油絵のように塗り重ねた現代アートのようなおもしろい味わいのカクテルです。そして三つ目は淹れたてのお茶を使って作るカクテルです。淹れたてのお茶は骨格が弱いため、アルコールと合わせるとそのお茶の風味が消えてしまう。また、緑茶は酸に弱いので、酸を加えると、テアニンの丸い甘味とのバランスも崩れてしまいます。そのあたりも一つ一つ検証しながら、酸とテアニンの甘みとの調和を図ったカクテルを作っていきました。

宮下:なるほど。確かにその三つの要素が見事にカクテルに表現されていて、一杯ごとに新しい発見がありました。

 

南雲氏考案の日本茶カクテル ©︎MIHO

 

南雲:淹れたてのお茶をカクテルにできるか否か。ここに煎茶のよさが出てくると僕は踏んだんです。ただ、いかんせん難しい。単純に淹れた煎茶とジンを混ぜてもおもしろくない。何を複合的に組み合わせたら、新しい煎茶の形になるのか?今回パリで披露した煎茶のティテールも1㎖単位で様々な組み合わせを検証して完成したカクテルの一つです。こうして三つ要素が揃って初めて、お茶だけでもお酒だけでもない、新しいカクテルとしての世界観ができたんです。今は、これをさらに押し進めているところです。

 

 

宮下:カクテルという視点は、本当におもしろいですね。日本酒に何かを加えたカクテル的な楽しみ方は、古来からあるんです。例えば、お正月の屠蘇(とそ)。屠蘇は、本来、屠蘇散と呼ばれる漢方を漬け込んで飲むいわゆる薬膳酒ですし、端午の節句の菖蒲酒、重陽(ちょうよう)の節句の菊酒など、そういった伝統的なものをカクテルとして再解釈してみるのもおもしろいかもしれませんね。また〈ふしきの〉では、加水してお酒のトーンを調整する手法として、水以外にも、炭酸水や水出し玉露を常備しています。炭酸水で割れば、炭酸が、お酒全体の酸味を持ち上げてくれるため、水で割ったときに比べて明らかに味わいはしっかりしますし、水出し玉露で割れば、玉露由来の甘味がお酒の甘味を補完する効果を狙えます。このように目的によって割り方を変えているわけですが、そこから派生して、お酒そのものをひとつの料理として捉えるような発想が出てくると、まさにカクテルの域になってくるんだと思います。

南雲:日本茶や日本酒は実に奥深い文化です。宮下さんのようにひとつのテーマをさらに突き詰めていくこともできれば、私のカクテルのように新しい世界観を提案することもできる。そういった日本文化の奥深さのようなものを海外へ広げていけたらと思っています。そのような意味では、今回の「ジャポニスム2018」の企画を通して、フランスのお客様に日本茶と日本酒を楽しんでいただけたのは、とても大きな意義があったと思っています。

 

(後編に続く)

南雲主于三

 最先端の技術と機材を巧みに操り、既存にない新しいカクテルを生み続けている日本随一のMIXOLOSIST。
 2017年4月にGINZASIX内にお茶とカクテルをコンセプトとした新業態のMixology Salonを開業。2018年11月に銀座Plus Tokyo内に国産スピリッツカクテルの専門BarとしてMixology Spirits Bang(k)を開業。現在は都内に6店舗のBarを経営するほか、メーカーのプロモーション企画コンサルティング、大手外資ホテルのメニュー開発、外資酒類大手との商品開発コンサルティング、様々な団体や企業などのパーティへのカクテルメイクのケータリングなどを中心に事業を拡大。
 アジアを中心に世界中でカクテルセミナーを行いつつ、国内外でゲストバーテンダー、講師として招待され、多岐に渡り活躍中。

宮下祐輔

 SSI認定利き酒師・酒匠、遠州流茶道師範
 2006年に開催された「第2回世界利き酒師コンクール」にて最年少のファイナリストとなり、以後、各地で日本酒や酒器に関するセミナーを開催。2011年には和食の日本酒ペアリングの専門店「ふしきの」をオープン。これまで延べ1万人以上に日本酒ペアリングを提供し、日本酒サービスに関する独自の理論を構築。現在は、日本酒アンバサダーとして、日本国内をはじめ、世界各国で日本酒ペアリングのイベントや日本酒や器の講師として招聘されセミナーを開催。