ジャポニスム2018|Japonismes 2018


©Tadao Ando(2017安藤忠雄建築展会場)

コラム
2018.04.10

安藤忠雄 ジャポニスム2018

安藤忠雄

西側諸国から見ると、日本は東洋のなかでも最も東の端に位置します。かつてヨーロッパ人は、東の果てに存在する文化国家に神秘性を感じ、強い関心を持ちました。
マルコポーロは「東方見聞録」で日本を「黄金の国」と紹介しましたが、西洋社会がこの国に強い興味を持ったのは、その文化の独自性によるものだと考えます。
文化というものは、生きるためのエネルギーです。新たなる価値を創造し、人生を奥深く豊かにするものは文化の力に他なりません。国際社会では、経済の力の方が目に見えやすいですが、文化の持つ力は本来、経済よりもはるかに大きなものです。
近世までの日本人は、四季の変化に富んだ美しい自然の中で、きめ細やかな感性を育んできました。このような土壌から、江戸末期には歌舞伎、文楽、浮世絵など、庶民の生活に密接した様々な文化を生み出し、世界でもまれに見る大衆文化国家となったのです。こういった日本独自の美意識は、モネに代表される印象派の画家をはじめ、西洋の芸術家に大きな影響を与えました。
文学においても、日本は独自の文化を発展させました。松尾芭蕉に代表される俳句の世界は、5・7・5という極限の制約の中で、美しい自然の光景や奥深い人間の情緒を表現する、日本人特有の感性が生み出したものです。
フランスでは、こういった日本の芸術文化はジャポニスムと呼ばれ、人々の関心を集めました。もちろん芸術の国フランスの文化もまた、日本の芸術家たちに多くの影響を与えて来ました。日仏の文化交流は両国の文化発展に大きく貢献しながら、現在まで続いています。
そして今年、日仏友好160周年を記念し、「ジャポニスム2018」がパリで開催されます。この機会に合わせて、10月より、ポンピドゥ・センターで展覧会を開くことになりました。展覧会では、直島や、光の教会などの展示を行います。

 

左:©松岡満男(直島アートサイト俯瞰) 右:©松岡満男

 

 

直島での取り組みは、単に美術館をつくるというものではなく、自然環境とアート、そして建築による地域のまちづくりです。瀬戸内海の離島である直島に行くためには、船を使わなければいけません。

初めてプロジェクトの概要を聞いたのは1988年。当初はそのアクセスの悪さから、「こんなところに人は来ないだろう」と思いましたが、今では年間40万人以上が訪れる「芸術の島」として世界中で有名になりました。
30年にわたり、島のまちづくりに関わり、建築をつくってきましたが、瀬戸内の風景を壊さないよう、自然に埋没する建築というコンセプトを一貫して守ってきました。合理性や利便性とはかけ離れた条件だからこそ、「ここでしかできない建築」を実現できたのではないかと思います。
ここでは日常生活から離れて、生きているということについて思索をめぐらすことが出来ます。自然とともに生きてきた日本の美意識から多くを学びながら、建築と芸術、そして自然が一体となった環境づくりを目指しました。
光の教会では、日本の伝統建築でも古くからテーマとされてきた「光と闇」について、自分なりに考えました。光や闇は、人間の生命の根源であり、それらを利用して「魂の拠り所となる建築」をつくることが出来ないかと考えました。
打放しコンクリートの単純なボックスに穿たれた十字架から差し込む光によって、時間の経過とともに空間は刻一刻とその表情を変化させます。光の十字架を輝かせるのは、深い闇の存在です。その闇の中で、光を道標にして人々は祈り、心を一つにします。光を求めて人々が集まり、光を頼りに対話を重ねる場をつくる。それはある面で力強く、またある面で儚さをもった空間です。
展覧会では、これらの仕事を通して、ここにしかない建築、ここにしかない空間をつくるプロセスを紹介したいと思っています。

思えば、はじめてパリで展覧会を開いたのは1982年、IFA(Institut Français d’Architecture) でのことでした。あれから36年の年月を経て、この記念すべき年に、再びこういう機会に恵まれたことを、大変光栄に思っています。

「安藤忠雄」展

・会期:
2018年10月10日(水)~ 12月31日(月)
・会場:
ポンピドゥ・センター

安藤忠雄

1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「フォートワース現代美術館」「プンタ・デラ・ドガーナ」など。79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、95年プリツカー賞、05年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、10年文化勲章など受賞多数。97年から東京大学教授、現在名誉教授。00年、瀬戸内海の破壊された自然を回復するための植樹活動「瀬戸内オリーブ基金」を設立。11年「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」 実行委員長。